認知症克服に向けた脳のレジリエンスを支えるリザバー機能とその増強法の開発研究

■プロジェクト概要

 現在、認知症は世界中で高齢化とともに急増しており、本人や家族の生活の質を損なうだけでなく、社会全体にも大きな医療・介護負担をもたらしています。
 これまでの認知症治療は、アルツハイマー型認知症に代表されるような、異常に蓄積するタンパク質(アミロイドβやタウなど)を標的に、それを除去するアプローチが中心でした。しかし、これらの治療法だけでは発症や進行を十分に防ぐことが難しいことが明らかになりつつあります。
 本プロジェクトでは、これまでとは全く異なる視点から、認知症に対する新たな挑戦に取り組みます。すなわち、脳の「リザバー機能」(脳に病的変化が起きても認知機能を保つための代償機能や代替経路の活用能力)に注目し、認知症の予防と治療に重要な働きを担うリザバー機能を解明するとともに、リザバー機能を高めるための具体的な増強法を開発します。
 リザバー機能の増強によって、脳にある程度の病的変化が生じた場合でも認知機能の低下を最小限に抑え、未病段階では発症を防ぎ、認知症に至った場合には低下した認知機能の改善を図ります。これにより、100歳までレジリエンスの高い、すなわち認知症になりにくい健康な脳を維持できる社会の実現を目指します。

■研究体制

 リザバー機能の生物学的基盤としては、神経やシナプスの可塑性、炎症制御、ストレス耐性、エネルギー代謝などさまざまな要素があり、リザバー機能の増強法についても、創薬・細胞移植・脳刺激(ニューロモジュレーション)といった異なる手法が候補になります。本プロジェクトではそれぞれの領域で卓越した研究者が結集し、緊密に連携しながら研究を進めます。さらに、ヒト・げっ歯類・霊長類を対象とすることで、ヒトで得られた知見のメカニズムをげっ歯類で明らかにし、げっ歯類で開発された増強法の効果を霊長類やヒトで検証するといった、双方向的かつ橋渡し的な研究展開を行います。

■2040年までに目指す目標

① 認知症の予防と治療に有望なリザバー機能を特定する。
② (創薬、細胞治療、脳刺激法などによる)リザバー機能増強法を開発する。
③ 脳のリザバー機能の活用と増強により、認知症の予防と回復を実現する。